増幅回路の基礎

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センサ出力が 20 mV、増幅器の公称利得が 100 なのに、負荷で測ると 1.28 V しかない。さらに入力を増やすと出力の頂部が平らになる。前者は負荷効果、後者は動作点と出力振幅の制限が原因になり得る。増幅器は利得、線形範囲、周波数応答、負荷駆動能力を同時に満たす必要があり、倍率だけでは性能を表せない。

確認すること観測する量対応する節
信号が実際に何倍になるか端子、周波数、負荷を指定した利得信号源から負荷までの利得
正負に振れる余裕があるか静止動作点と出力振幅範囲バイアスとダイナミックレンジ
エミッタ接地かフォロワか電圧・電流伝達と端子インピーダンス回路構成の用途と限界
高周波で利得が下がる理由結合、寄生、入出力間容量帯域とミラー効果
負帰還が有効か複素ループ利得と安定性帰還と安定性
大信号でひずむかクリッピング、非線形、変化率、駆動能力小信号帯域以外の制約

増幅のエネルギーは電源から供給される

増幅回路は入力変化に応じて、電源から出力へ流れるエネルギーを調節する。ある範囲では入力と出力を線形関係で近似できるが、任意の入力、周波数、負荷で成り立つわけではない。エミッタフォロワは電圧利得が 1 未満でも電流利得や電力利得を持つ。電圧が高くなることと、電力が増えることは同義ではない。

動作点まわりの小さな変化に対する電圧利得は 。瞬時出力は と表せる。直流バイアスを微小交流入力で割っても、信号利得にはならない。周波数領域の は振幅と位相の両方を含む。

電圧利得のデシベル表示は通常 。負の利得は反転を表し、負数の対数を取るという意味ではない。電力利得は である。入力と出力の抵抗が異なると、電圧比だけでは電力比を求められない。純抵抗に対する RMS 電圧なら となる。

信号源から負荷までの利得

信号源を開放電圧 と直列抵抗 、増幅器を入力抵抗 、無負荷小信号利得 、出力抵抗 で近似し、負荷を とする。このモデルでは、入力側と出力側の分圧を両方含める。

。

、、、、 とする。入力の負荷効果で 20 mV は 16 mV となり、内部出力変化は 1.6 V。出力の負荷効果でさらに 1.28 V へ下がる。総利得は 64、約 36.1 dB である。

信号源20 mV,Rs = 10 kΩ増幅器入力Rin = 40 kΩ → 16 mV負荷出力Rout = 1 kΩ,RL = 4 kΩ内部電圧利得 100:16 mV → 1.6 V出力負荷でさらに 0.8:1.6 V → 1.28 V公称電圧利得 100、信号源から負荷までの実利得は 64小信号等価、純抵抗の近似。実際の総利得 = 0.8 × 100 × 0.8 = 64。

入力抵抗を大きくするか信号源抵抗を小さくすると、入力側の減衰を抑えられる。出力抵抗を小さくするか負荷抵抗を大きくすると、出力側の減衰を抑えられる。ただし実際のインピーダンスは周波数に依存し、帰還によっても変わる。単一周波数の抵抗モデルだけで全帯域の性能は保証できない。

この計算は、電圧伝達で高入力・低出力インピーダンスがよく求められる理由も示す。一方、電流入力やトランスインピーダンス測定では目標が異なる場合があり、すべての増幅器に共通する条件ではない。

バイアスとダイナミックレンジ

トランジスタ増幅器では適切な静止動作点を設定し、その付近で信号を変化させる。BJT は通常順方向能動領域、MOSFET は適切な飽和領域を用いる。両方を単に「線形領域で動作」と呼ぶと、デバイス固有の領域名と混同しやすい。

分圧バイアスでは、ベース電流が分圧器へ与える負荷を含める。エミッタ抵抗も帰還を通して動作点を変えるため、 は負荷接続時に無条件で厳密な式ではない。回路と計算は BJT のバイアス を参照。

別の独立した学習例として、5 V 電源の増幅器を考える。指定負荷で許される出力範囲を 0.2–4.8 V、静止出力を 2.5 V と仮定すると、上下のピーク余裕は各 2.3 V。利得が 20 なら、振幅制限だけによるクリッピングを避ける入力ピーク上限は約 115 mV となる。

0.22.54.8出力 / Vt破線:利得式が要求する出力実線:0.2–4.8 V に制限した出力バイアスは振幅の余裕を配分するが、出力範囲を広げない独立した学習例:静止出力 2.5 V、利得 20、入力ピーク 0.2 V。実測波形ではない。

入力ピークを 200 mV にすると、利得式は 2.5 V を中心に ±4 V の出力を要求し、仮定した範囲を超える。バイアス調整は上下の余裕を配分し直す操作であり、総範囲を広げる操作ではない。頂部が平らでなくても、デバイスの非線形、雑音、周波数ひずみは残り得る。

出力範囲は負荷電流と温度によっても変わる。5 V 電源だからといって、出力が厳密に 0 V と 5 V へ達するとは限らない。入力同相範囲は別の制約であり、出力に余裕があっても入力動作点が有効とは限らない。

バイアスで振幅余裕はどう変わる?

入力200 mVでバイアスを動かすと先にクリップする側は変わるが、目標全体は収まらない。2.5 Vなら上下余裕が等しく、この対称信号の無クリップ振幅が最大になる。

図を準備しています
バイアスで振幅余裕はどう変わる?

バイアスは上下の余裕を配分し直すだけで、出力範囲そのものは広げない。

回路構成の用途と限界

「接地」は入力と出力に共通する交流基準端を示す。交流的に共通の端子でも、直流で直接接地されているとは限らない。

構成一般的な位相と用途主な制約
エミッタ接地 / ソース接地通常は反転し、電圧を増幅負荷、帰還抵抗、出力抵抗、寄生成分に依存
コレクタ接地 / ドレイン接地通常は同相、電圧利得は 1 より少し小さく、バッファに使用バイアス、出力余裕、電流能力が必要
ベース接地 / ゲート接地通常は同相で低入力インピーダンス。広帯域・電流入力に利用寄生容量や帯域の制限がなくなるわけではない

エミッタ接地の は、エミッタを交流接地とみなし、関係する出力抵抗を無視でき、負荷も簡略化できる場合の式である。バイパスされていない があれば帰還で利得が下がり、入力抵抗は上がる。出力負荷はコレクタの等価負荷にも含める。回路に を残したまま完全バイパスの式を使うと、利得を大幅に過大評価する。

ベース接地・ゲート接地の低入力インピーダンスは、入力容量による時定数を小さくできる場合がある。コレクタ–ベース間、ドレイン–ゲート間の容量も、高利得の入出力間を同じ形で接続しなくなる。ただし他の容量、出力極、キャリア走行時間の影響は残る。

帯域とミラー効果

低周波側では結合容量、エミッタのバイパス容量、バイアス回路が、高周波側では寄生成分、出力負荷、帰還回路が応答に影響する。直流結合増幅器にゼロより高い下限周波数があるとは限らない。帯域通過型では、中域利得から 3 dB 下がる境界を 、 とし、帯域幅を とすることが多い。

単一の一次極の振幅比は 。 では約 −3.01 dB、振幅比 0.707 であり、信号が消えるわけではない。複数の極、零点、ピーキングがあれば形も変わり、平坦な応答が突然途切れる矩形では表せない。

容量 が入出力間に接続され、 なら、入力から容量へ流れる電流は 。 を実定数で近似できる帯域では、入力側の等価容量は となる。反転利得 −49 なら、2 pF の入出力間容量が約 100 pF の入力負荷として見える。

この 100 pF を 10 kΩ で駆動する単一極近似は約 159 kHz となる。物理的な容量が 50 倍になるのではなく、出力が逆向きに変わることで容量両端の電圧変化が大きくなる。 が周波数に依存すると、固定容量としての等価表現も成り立たなくなる。MIT:高周波回路とミラー効果

帰還と安定性

線形帰還モデルで誤差を 、順方向増幅を とすると、閉ループ利得は 。低周波の が大きな正の実数なら は に近づくが、相対偏差は約 残る。「外付け部品だけで完全に決まる」とは言えない。

、 なら閉ループ利得は約 9.999。同じ帰還率でも、対象周波数の が 100 まで下がると約 9.091 になる。帰還抵抗の誤差、入力オフセット、雑音、信号源と負荷の条件も結果を変える。大きなループ利得はループ内の外乱や非線形の出力への影響を抑えられるが、ループ外の誤差や電源制約によるクリッピングは取り除けない。

実際の と には位相がある。周波数が上がると、打ち消すはずの帰還が遅延によって増強側へ回り、ピーキング、リンギング、不安定化を生じ得る。帰還を「負入力」に接続したかだけでなく、ループ利得、交差周波数、安定性を解析する。Analog Devices:ループ利得と安定性

入力での混合 / 出力の検出端子インピーダンスの一般的な傾向用途例
直列 / 電圧入力上昇、出力低下電圧増幅
並列 / 電圧入力低下、出力低下トランスインピーダンス増幅
直列 / 電流入力上昇、出力上昇トランスコンダクタンス増幅
並列 / 電流入力低下、出力上昇電流増幅

これらは負帰還が有効で、帰還回路による負荷を適切に扱った場合の傾向である。単一主極の電圧帰還モデルでは利得と帯域に近似的なトレードオフがあるが、一定の利得帯域幅積を任意の帰還構成へ一般化してはならない。Analog Devices:利得と帯域

小信号帯域以外の制約

スルーレート SR は出力電圧の変化速度を制限する。ピーク の正弦波の最大傾斜は なので、必要な SR は少なくともこの値。ピーク 2 V、100 kHz なら約 1.257 V/μs となり、SR が 0.5 V/μs の増幅器は、小信号帯域が足りていてもこの波形を無ひずみでは出力できない。この必要条件だけで低 THD が保証されるわけでもない。TI:THD+N とスルーレート

ひずみ・制約主な現れ方最初に確認する項目
クリッピング頂部・底部が平らになるバイアス、電源、負荷接続時の振幅範囲
クロスオーバひずみプッシュプル出力のゼロ交差付近で非線形出力段バイアスと帰還の有効範囲
高調波ひずみ正弦波入力から追加の高調波が生じる非線形、振幅、周波数
変化率制限大信号のエッジに追従できず、正弦波が直線的になるSR、振幅、周波数
リンギング・発振ステップ後の振動や持続発振帰還、容量性負荷、配置、電源

THD は通常、高調波 RMS の二乗和平方根を基本波 RMS で割る。THD+N は測定帯域内の雑音なども含む。雑音は決定論的な高調波ではなく、一度のオシロスコープ表示が滑らかでも低ひずみを証明できない。

from math import log10, pi, sqrt, isclose
gain = 40000/(10000+40000)*100*4000/(1000+4000)
assert isclose(gain, 64)
assert isclose(.02*gain, 1.28)
assert isclose((4.8-2.5)/20, .115)
closed = lambda a,b: a/(1+a*b)
assert closed(100000,.1) > 9.99
assert 9.09 < closed(100,.1) < 9.1
miller = 2e-12*(1-(-49))
fp = 1/(2*pi*10000*miller)
sr_required = 2*pi*100000*2/1e6
assert 159000 < fp < 160000
assert sr_required > .5
print(f"負荷接続時の総利得 {gain:.1f},{20*log10(gain):.2f} dB;ミラー単一極の推定 {fp/1000:.2f} kHz")
print(f"大信号の必要傾斜 {sr_required:.3f} V/μs")

実際の信号経路に沿って、まず直流条件と負荷、次に小信号利得と周波数応答を確認し、最後に振幅を増やして出力範囲、変化率、安定性を調べる。次の 演算増幅器 では、これらをオペアンプの帰還回路に適用する。